(感想)ゲルニカ -無差別爆撃とファシズムのはじまり- 著:早乙女勝元氏

今朝はトップチーム5位死守&EL出場権獲得+Bチームの2部昇格決定(実に60年ぶりとのこと)の歓喜に沸きました。

 

ところで、忌まわしきCOVID-19禍にあり、サッカー観戦の他もう一つ楽しみにしているものがあります。読書です。昔から習慣があり、虫というわけではなく、大学を出たあたりから趣味の一環として多少するようになりました。

最近まで本は読みたいけど近所の書店(地方)に魅力的な本がない+購入費が惜しいの二重苦で中々読書にありつけていませんでした。そんな中感染者増減の谷間に友人たちと大きめの図書館に行った際、「ああ、市の図書館でも行くか」という念が湧き、度々の訪問に結び付きました。今ではプライベートの楽しみの一つです。

 

読書といっても今の関心は大きく2つあって、一つは他国(最優先はスペイン)についての本、もう一つは理科関係の読みやすい本です。後者の理科関係の本のことはまた先送りにするとして、今回は前者、この記事に関しては本国で愛・情熱の国とも謳われるスペインの暗い歴史にフォーカスした一作です。それでは本題に入ります。

その前に一つだけ明示させてください。私は個人の主観による政治語り・国政を非難する人に辟易するぐらいの人間で、共和制や民主主義など各政治的イデオロギーのことは知識もなければ特に思い入れもありません。選挙に関しては毎度自宅で定期購読している朝刊記載の公約一本釣りです。

 

(本を手に取った経緯)

ピカソゲルニカのことは、幼少期から最近まで抽象画?という感しか抱いていませんでした。ゲルニカが街の名前だと知ったのはラレアルを応援し始め、背面背番号上に見える旗・イクリニャの使用色の意味を検索していたことに端を発します。以下リンクのWebサイトを拝見するに、”ゲルニカのオーク」(バスクの伝統的な議会がこの木の下で開かれたことから、伝統的な法や、民族の自治・自由といった価値を象徴する)”意味するとのこと。

イクリニャ || バスクを知る || La Pays BASQUE(ラ・ペイズ・バスク)

(2021/5/23再訪、引用)

オーク(Oak)とは樫の木の事のようで、バスク州ビスカヤ県にあるその木がバスク(Euskadi)の象徴の一つとなっていると。それではピカソの絵の意味とは?

 

(本題(やっとで恐れ入ります。))

回答は苛烈なスペイン内戦下における、悪名高い反乱軍のフランコ及びファシズム2国のドイツ・イタリアによる、1937年4月26日夕刻に下された3h弱に及ぶゲルニカ空撃被害の描写。ゲルニカは「巨大な溶鉱炉」と化したとのこと。ピカソがパリ万博に出展した「ゲルニカ」制作中に出した声明は以下のとおり。

・スペイン戦争は、人民に対する、自由に対する、反動の闘いである。

・わたしの芸術家としての全生涯は、もっぱら反動と芸術の死に反対する絶えざる闘争であった。

ゲルニカと名づけるはずの、いま制作中の壁画においても、わたしの最近のすべての作品においても、わたしははっきりとスペインの軍部に対する憎悪を表現している。軍部こそはスペインを苦しみと死の海に投げ込んでいるのだ

ピカソ」(新日本新書) 著:大島博光氏 (標記著作中で引用)

また、早乙女氏が1997年に訪れたゲルニカ町役場庁舎で開催のあったゲルニカ爆撃展に、ピカソゲルニカ作成・公開について以下の解説があったようだ。

”「パブロ・ピカソは、爆撃の実態と悲惨さとをもっとも広く世界に知らせ、歴史の真実を明らかにするために貢献した。その芸術を通して平和と自由のためにたたかい、戦争否定の回答を与えたのである。」”(標記著85pから)

短くもなんと雄弁な解説か。ピカソの意図を考慮し、その偉業を称する素晴らしい記述と思う。

 

この章で特に印象に残り、記しておきたいと感じた場面を紹介したい。

早乙女氏はゲルニカ爆撃展の閲覧後、同じ町役場庁舎の構内で3名の体験者との対談を行った。質疑応答の場にて、

ヒロシマの話が出ましたが、日本ならびに日本人には、どんな印象がありますか?」

と早乙女氏。その返答として、

「あの当時、日本はドイツ、イタリアと手を組んでいた。三国同盟を結んだことが、頭に残っているので、なんとなくやだな。申し訳ないが、すっきりとは割り切れんのだよ。ドイツ人なんか、顔も見たくないさ」”(標記著88pから)

その次ページで早乙女氏が、ゲルニカ爆撃の半年後の1937年12月1日、日本政府が共和国政府と国交を断絶し、フランコ政権を承認したこと(英仏よりも1年以上も前)に言及してくれている。

上のことは、文系選択の上日本史Bを高校で学ばされた私も聞かされていなかった。(理系選択の方、文系世界史選択の方よりは日本史を深く学ばされただろうという意)忌まわしき過去を伝えることも必要ではないのか?それをどう受け取るかは其々であっても、伝える必要がないと何を以て言えるのか?何のための歴史教育か?上っ面をなぞるだけなら誰にもできる、「教育」とするに足らないではないか。冒頭で政治語り・批判うぜえと言っときながらごめんなさい。

「なんとなく嫌」、「申し訳ないがすっきりとは割り切れない」とクッションの利いた発言をされた体験者の方、なんと器が大きいことか。日本に生を受けた者の一人として、軽くは受け止めがたい一連と思い、特筆した次第です。

ここまでゲルニカ訪問編についてでした。

 

・トレホン訪問編

1997年のスペイン取材で、早乙女氏はトレホン元米軍基地をも訪れた。同基地は地中海最大規模を誇っていたらしい。スペインには他にサラゴサやモロンなどに米軍基地があったが、それを生んだのはフランコ独裁下のスペインがアメリカと結んだ軍事協定にあり、名目上は「共同使用」基地として設立されたとのこと。フランコ死後、トレホン米軍基地について「押しつけられた」ものと感じていたスペイン国民の不満が噴出。基地撤去を求めるデモが10万人規模で何度も繰り返した。また、スペイン新政府(社会労働党政権)も国民の意に沿い、米軍基地の「大幅削減」を国民投票で可決、それをもって米国に迫ったとのこと。アメリカは冷戦構造もあり、撤去の運びに。

これに加え、1996年、スペインはイラク攻撃に向かうアメリカの、スペイン基地をステルス機の中継基地としたいとの申入れを、「わが国は主権国家であって、植民地のように扱われるいわれはない」と断固拒否したとのこと。(「El Pais」1996.9.14)

敗戦国として戦後の立て直しから米国と強い結びつきのある日本と事情が異なるとはいえ、スペインの大国アメリカへの姿勢には目を見張るものがある。

 

また、この本の後半では、イタリア国民のファシストとの闘争が踏み込んで書かれている。さらに長くなってしまうため詳しくは紹介しないが、とりわけ心に残ったことを紹介する。

●日独伊三国同盟を突如脱退(降伏)し、連合国との休戦に踏み切ったのは、単に連合国優勢に進み、被害の拡大が予想されたということでなく、上にも書いた、イタリア国ニアの内なる対ファシズム政権の闘争の末の打倒の上になされたこと。

その実休戦に踏み切ったのはムッソリーニでなく、彼の逮捕後反ムッソリーニ勢力によってである。ムッソリーニ逮捕の裏には民衆蜂起・パルチザン部隊の闘争があった。現代のイタリア国民の暮らしは、彼らが守った遺産という側面を持つはずである。早乙女氏は本著で、このレジスタンス運動を、全体主義から自分達の町や都市を守ろうという意志、人間らしく生きたいという人権意識に基づいたものと推察している。一方、反ファシズム反乱への報復の残酷さの紹介とともに、報復に遭ったものの意思を代弁する、凄惨な現場に残る碑文の紹介があった。

「ここで、われわれは殺された。戦慄すべきいけにえとして。よりよい祖国イタリアと人民の自由ではてしない平和は、われわれの犠牲のうえに生まれるだろう」(本著175p)

人並ならざる覚悟と人々の幸せな暮らしという目的に向けて命の灯を燃やした確かな跡が見て取れる。関連したもので、先に読んだヘミングウェイ著の「誰がため鐘は鳴る」では、一軍事作戦を任されたパルチザンの、生への渇望と将来的な至上命題の達成との狭間で揺れる葛藤が描かれていた。銃口を向ける相手への、「信条を異にしても同じ家庭等の守るべきもの、また人の心を持った人間である」という当然の事実からくる迷いも。彼らパルチザンはその上で行動したのである。そしてイタリア・スペインの人々がその歴史的背景を持つということを、せめて気に留める必要があると感じた。

 

何も罪の意識を持つ必要があるとか穢れた血だとかああだこうだ言う気はないが(他国から後ろ指を向けられることはあるかもしれないが)、せめて第二次大戦中にファシズム側に加担し、また自らもその一翼を担った国の人民として、無視できる類のものではないし、頭に入れても損はないと思い、無知な自分にもそう感じさせるだけの力がある名著として、紹介させていただいた。皆さんにもそーしろとか恣意的なことを言うつもりもないし、そうあって欲しいなどという考えは持ち合わせておりません。あくまで自分にとってそう感じたという事です。

著者の早乙女氏自身が東京空襲の体験者であり、全体に重厚さを伴う作品である事、スペイン訪問はこの取材で初めてということながらベラスケス、マハなどの画家、チェロ奏者のカザルスについての言及など、スペインの文化について明るい方であることも申し添えます。

 

勿論暗い話題ばかりでなく、明るい内容の記事も今後とりあげて紹介していきたいと思います。

今回も取り留めを欠く長文となり失礼いたしました。もし皆さんにおすすめのスペイン本があれば、ぜひご紹介ください!